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料理長が「自分はなんでもできる!」と勘違いする理由
本当にできるの?

ヨレヨレのおじいさんが「5つ星ホテル」の総料理長を選考してしまう

たとえば、65歳で10部屋規模の旅館(1部屋あたり単価2万円程度)で料理長を務めてきた和食調理師が、「マリオットホテル」の総料理長職に応募する・・・このようなケースは決して珍しくありません。

しかし、10部屋の旅館では、調理場の人員は1〜3名程度で運営されているのに対し、300室規模の高級ホテルでは30〜50名の調理スタッフを抱え、オペレーションやマネジメントの仕組み、働き方そのものがまったく異なります。したがって、そのままの経験では、大規模ホテルの現場を回すことは現実的に不可能です。

これは極端な一例ではありますが、大小の差はあれど、同じような「勘違い選考」は日常的に起こっています。

ではなぜ、料理長たちはこうした「勘違い選考」をしてしまうのでしょうか?

評価が図りにくい

街の料理屋に訪れるお客様の目的は、シンプルに「料理を食べること」です。そのため、評価の基準も当然ながら“味”が中心となります。

一方で、旅館に訪れるお客様の目的は多様です。たとえば「この温泉に入りたい」「旅館の雰囲気が気に入っている」「寝る場所を探していただけ」など、料理以外の要素が大きな比重を占めていることも少なくありません。結果として、料理の評価が分散されてしまう傾向があります。

たしかに、口コミサイトの中には「料理」の項目を個別に評価できるものもあります。しかし、実際には料理がそこまで優れていなくても、全体の満足度が高ければ「料理」に★5つが付くこともあります。逆に料理の評価が低かったとしても、「サービスが悪かった」「価格に見合わなかった」など、評価の原因が別の要素にあるように捉えられ、料理長自身が直接的に減点されにくい環境があるのです。

さらに、調理場には、いまだに「料理長は神様」といった文化が根強く残っています。部下や周囲のスタッフからも意見や指摘を受ける機会が少ないため、自分の実力を客観的に測る手段がないというのが現実です。

勘違い料理長の末路

このような環境で長年働いていると、仮に実力以上の格上の旅館に料理長として間違って転職して、うまく現場を回せなかったとしても、「自分のやり方は正しい」「悪いのは職場環境だ」と、責任を外に向けてしまいがちです。

その結果、自身を客観的に見つめる「自己分析」ができず、当然ながら「自己改善」にも繋がらず、そしてそのまま年齢を重ねてしまうのです。

こうした傾向のある方々は、現実とのギャップに気づかないまま、つねに“格上”の料理長求人にばかり応募し、選考に落ち続けるケースが多く見られます。最終的には、安定した職を得られず、スケ周り(日雇い労働)で生計を立てているというのが現実です。